奈良美智の日々

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昔の写真

時々、散らかった部屋の片付けをしていると、何かの拍子で写真が入った箱を開けてしまい、時間を忘れて過去への旅路が始まってしまうことがある。

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今から何年前になるんだろう・・・ドイツのケルンに住んでいた頃の写真が出てきて・・・たった1枚の写真なのだけれど、じっとみていると色んなことが瞬時にフラッシュバックしてくる。

あの頃の僕、明日の予定も無しに日々を、時計の秒針が進む速度そのままに生きていた。昨日や明日に想いを馳せることなく、いつも何かを感じた瞬間に筆を取っていた気がする。

いつも、やって来た今日を迎える度に、ひとつ何かを絵にしていたのだ。展覧会の予定さえないのに、僕は毎日描き続けていた。そういう行為に快感を覚えていたわけでもなく、使命感でもなく、なぜなんだろう・・・理由なんて考えることもなく、ただただ描き続けていたのだ。

あの頃から、たくさんの夜を乗り越えて、ちょっと年取った自分が今こうして文字を紡いでいる。少しは冷静に、過去を振り返って書きとめることが出来るのだろうか・・・いや、出来ないなぁ。一人で考えてると、都合の良いふうに記憶が物語化されてってしまうぞ。

頭の中一杯に思い出を膨らませて、過ぎ去った時間を確かめるのは、懐かしい友に久しぶりに会った時にしよう。

古い写真を手にとって時間を止めてはいけない。時間を遡ってもいけない。今を越えるために、今を感じているのだ。

・・・つうか、普通にテキパキと片付けなきゃな!
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by ynfoil | 2011-06-30 04:41 | 日記 | Comments(0)

Tシャツ

宮城県は仙台市郊外でARABAKI ROCK FESTが開催される。もう11回を数えることになる、東北の手作りROCK FESTのパイオニアだ。その主催者に頼まれてTシャツを作ることになった。売り上げは全て震災で保護者を失った子ども達のために使われる。けれども、そういう慈善的な意味で引き受けたわけではない。

僕の描く絵は、子どもや動物など誰にでもわかるようなモチーフであり、必然的に親しみやすい。そしてROCK MUSICが好きな自分であるために、その手のいろんなところから宣伝イメージに使いたい、とオファーがくる。しかし、ほとんどは僕の作品自体に言及することなく、彼らサイドの熱意の押し売りが多い。何故に僕の絵を使いたいのか、僕の絵のどこに魅かれるのか、そんなことは彼らの口からひとつも出てきやしない。所詮、宣伝のために力を貸してくれないか的なかんじに思えてしまうのだ。この体を削り絞るようにして産み出したものを、そう簡単には捧げられない。僕の絵を、僕や彼らが愛する音楽と同じように好きでいてくれるならば、今まで好きなバンドのアルバムカヴァーに提供したように、喜んで絵を捧げるだろうけれど。

ARABAKIの主催者から、協力して欲しいと連絡を受けたのは数年前だったのだけれど、先に書いたふうな印象を受けて断ったのを覚えている。ARABAKIの主旨やフェスの在り方には充分賛同するし、その開拓者精神には尊敬の念を覚えるのだけれども、自分のような一人のちっぽけな人間でも譲れないものがあったのだ。

それから数年、主催者の彼からいくつかのメールをもらった。そこには、僕の想いを充分に察してくれた気配があった。そして、僕が先の震災後の仙台でおこなったゲリラ的なスライドショウに来てくれて、その時に初めて顔を見合わせて話したのだった。そうして、僕にしてみても彼のフェスに賭ける気持ちも充分すぎるほどにわかり、彼も僕のスタンスというものを理解してくれたように思ったのだ。そして、今僕が住んでいる栃木県と故郷である青森県との間でおこった地震と津波による多大な被害。実家への行き帰りに通る、あの慣れ親しんだところ。静かに優しく笑う友達が暮らしているところ。とても他人事とは思えない。なにか自分がするべきこと、自分がしなければ誰がやるのだ的なこと、そんなことって何だろうかと考えていたところだった。

こうなったらもう理由を書くなんてことは無意味だ。僕は自分の絵を、今回のフェスに喜んで捧げようと思った。少しでも・・・なんて思わない。たくさんTシャツが売れて、着てくれる人たちもたくさん、たくさんで、僕らのスピリットをみんなで共有できればよい。というか、そういうふうにして、アクションがリアクションに支えられて、自分もまた行動できるのだろう。名誉や利害、自己満足のためなんかじゃない。かといって、義務感でもない。一体なんなんだろうか、この感覚は・・・一体。親兄弟、家族のように感じられるものだろうか。地域的な歴史や空気を共有する感覚でもあるのかもしれない。

Tシャツのイメージは、大好きなRAMONESの掛け声「Hey! Ho! Let’s Go!」をもじって「Toh! Hoku! Let’s Go!」とシャウトするシンガー。片手を握って突き出す得意のポーズだ。

    「東北!Let’s Go!」

自分が出来ること、今までに感謝して、それを捧げるべし!
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by ynfoil | 2011-06-23 07:31 | 日記 | Comments(0)

ベニスに行ってきた

ベニス・ビエンナーレ。2年周期で開催される、おそらく世界一の国際美術展だ。しかし、かつてヨーロッパに12年も住んでいた自分だけど、3回しか訪れたことがない。美術をやっている者として、なんたる勉強不足!と、落ち込む・・・なんてことはない。実を言うと、そんなに興味があるわけではないのだ。でも、国別パビリオンでのその国を代表する作家の展示や、街中のいろんな場所で開催される展覧会を観たい気持ちはすごくあるわけです。今回は縁あって4回目の訪問となったわけなのだけど、なんとオープニング日に訪れることができたのだった。

ロザ・マルティネス企画の展覧会もよかったのだが、やっぱり国別パビリオンがビエンナーレの醍醐味だ。恥ずかしながら、入館待ちに長蛇の列が続くイギリス館とアメリカ館は観なかったけど、ドイツ館とチェコ+スロバキア館が良かった。スカンジナビア館の絵画作品も良かった。日本館の束芋のアニメーション作品は、鏡を使った展示方が成功していた。そして、今回訪れて自分を揺り動かしてくれたのは、アルセナーレ奥の木々に囲まれた小さな庭で行われていたジェラティンのパフォーマンスだった。電話ボックスほどのガラスの溶解炉が建てられ、背後には山のように薪が積まれている。その脇には3畳ほどの小さなステージ。ガラスの破片を溶解炉に投入し、薪をどんどんくべて溶かし続ける。ドロドロになったガラスを取り出しては、芝生の上にぶちまける。ステージではずっとバンドが演奏し続けている。僕らは、ウッドストックの聴衆のようにそんな風景に溶け込んでいる。ジェラティンに傾倒しているアイスランドの2人組みMOMSが、全裸でパフォーマンス開始。いつの間にか僕もマーカーを握り、彼らの体にラクガキし始め、演奏が終わったJAPANTHERのバスドラムにも描いてしまう・・・といった状況だ。

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ベニスを去る前夜、ジェラティンのフローリアンと、彼らのパフォーマンスを手伝ったロンドンの女の子、溶けたガラスをぶちまける役のベルギー人にアメリカ人。ルーマニア館の展示作家のアンネッテ・モナサリ、小山さんとはまちゃんと、魚市場のある運河沿いの石畳に寝っ転がって、飲んで、酔っ払った。そこで初めて、この旅で得たものがなんだったのか少しわかった気がした。

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ベニスでは、アートフェアとは違う生のアートに久々に触れることができた。今の空気に包まれたアートだ。いままで自分は長らく路上をふらついていたような気がする。そして久々にギャラリーや美術館に足を踏み入れた気分だ。アートシーンから、ちょっと離れていた。昨年は東京でセラミックによる個展をしたし、NYでは新作を含む回顧展的な展示も行った。でも、いつも誰かが助けてくれて、何か居心地がよく、障害物のない表通りを歩いているようだった。いつの間にかゴミ収集車が去った通りを歩いていたような感じだ。再び、自分ひとりの右手に握った筆や鉛筆から繰り出されるイメージを、紙にキャンバスに、確保する日々が本格的に始まる。つまづき、よろめきながらゴミがたまった、自分に似合った通りを歩く。それは、メインからひとつ横に入ったような通りだな。自分にとっての教室であったところかもしれない。

・・・なんだ、結局今もまだ路上にいるんじゃないか!早く美術館とかにも入っていかなくちゃな!ほんとの冒険は、いろんなことに縛られてしまった大人が、鎖を解き放って飛び込むものだ。理由なき反抗は振り返っても霧の中だ。何かわからないけれども、すごく大きな冒険に出発する気持ちだ。


自分のほんとの言葉は口から出てくるものじゃない。
こうして文字にするものでもない。
なにか眼に見える形にしていくものだ。

虚構の現実に答えはないのだ。
脳みそだけではなく、体を動かしながら考えるべし。

意味の無い怒りを捨てよう。
しかし、怒りの気持ちを忘れずにいよう。
楽しみの影にある哀しみを感じ続けよう。
哀しみの向こうに喜びを見つけよう。

何度も、何度でも自分に渇を入れて、自分の言葉を絵にしよう。
うまくいかなくても、進むことはやめないでいるべし。

どこにいても自分を保ち続けよう。
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by ynfoil | 2011-06-09 07:09 | 日記 | Comments(0)