奈良美智の日々

2011年 05月 13日 ( 1 )

韓国の新聞からの質問への回答

実際の紙面には全部は反映されなかったので、ここで全文を・・・
そして、紙上では、住んでるとこが東京と記されていたけど、栃木県の那須塩原というところに住んでいる。
3軒の隣家があるだけで、緑に囲まれた、東京とは正反対のような環境・・・以下、質問者へ返信した全文。


質問者の方へ

まず、この質疑応答は僕にとっては、紙面の片隅を埋めるためのありきたりな答えを述べるものではなく、よくある誤解を解き、他の似たような作風の方々との違いを、自分のことを語ることでわかってもらいたいというものです。トレンドで紙面や画面を埋めていくメディアというものに幻滅することは多々あります。しかしながら、そういうことを知りながらも、少しでも希望を持って、質問への答えを語ろうと思います。

質問1.5年前個展を行い9万人あまりの入場客が訪ねるほど好評だったり、去年は韓国を訪ねたり韓国の人と出会う機会が多くみられる。奈良さんの作品がなぜ韓国の人に人気なのか、作品のどの点が交感すると思いますか?

わかりません。オーディエンスのリアクションを考えて制作しているわけではないので、そのような「なぜ」は考えたことがないのですが、オーディエンスの作品に対する理解には簡単にわけると2つあると思っています。表面的な眼に映るイメージに反応する人々と、内面的な眼に見えないものに反応する人々です。それは、日本でも、アジアでも西洋でも同じなのですが、ほとんどの人は、眼に映るキャラクター的なイメージに反応していると思われます。アカデミックな美術を学んだ人は、技法や構図、形の決め方など造形的なところを観察するでしょう。また思想的な背景を感じて反応する人もいます。しかし、多くの人に好まれる理由は、誰にでもわかるものを描き、複雑な思考回路を用意しないと鑑賞できないものではないところだと思います。僕の作品は「感じる」ことで生まれるものがほとんどなので、「理解する」ことで見えてくるもの以前に、誰しもが感じることで鑑賞できるというのも好まれる理由かもしれません。


質問2.'偽悪な顔でありしかし悲しみを持たせる女の子'が主なキャラクタであります。大衆文化や漫画などの影響を受け誕生したキャラクターとして知らせてありますが最初の段階でどんなきっかけで生まれたのでしょうか?
作家自分自身の自画像または魂として理解してもよろしいでしょうか?

質問3.奈良さんはオタクと呼ばれる大衆文化の影響を受けた日本の代表的なポップアーチストであります。作家として自分自身の作品世界に一番大きな影響をうけた作家または大衆文化の作品がありましたら何でしょうか?

僕の感性は、子どもの頃の生活環境(本州の北端、青森県という雪国、森や林檎園が広がり、うねうねとした川が流れるところ)が大きく影響していると思います。家に帰っても「鍵っ子」であった自分は、そんな自然の中で、木々や山や空、家畜や犬や猫と対話することをしていたと思います。友だちみんなと遊ぶよりも、ひとりで走り回り、立ち止り、眼の前の花を見ながら息をする・・・そんな幼少時代でした。もちろん、誰もいない家の中で、ラジオのスイッチを入れ、近くの米軍基地のラジオ局からの「英語の歌」をバックグラウンドに、猫と会話しながらとりとめもなく落書きのような絵を描くのも好きでした。しかし、10代になれば、男の子たちが憧れるような遊びにも夢中になり、仲間とつるんで冒険をするようになります。また、「英語の歌」も、商業主義的なものから、マニアックなものに移っていきました。

「マンガやアニメなどの影響」とよく言われますが、自らそのような「解説」を作品にくわえたことはありません。しかし、似たようなものとされる「絵本」(日本、西洋問わず)「子ども用の文学」(岩波少年少女文庫など)の影響は限りなく大きいと思います。僕に「おたく」的な要素があり、そこからの影響で作品世界が形成されているとするなら「英語の歌」でしょう。CDの無い時代、お小遣いをためては、国内盤より安い輸入盤レコードを買い、そのジャケットを穴のあくほど眺めながら、異国の言葉で紡がれる内省的な歌を聴いていました。その、生活習慣も宗教的な文化背景も全く違うところで生まれた「歌」を、感じ、理解しようとすることで、深く感じるところから生まれる想像力を鍛錬できたのだと、最近発見しました。そして、その後17歳で出会うパンクロックで、表現する、ということを学んだのだと思います。

質問4.あるインタービューで"一人の寂しい時間の時は私自身との対話は制作の出発点である"と答えたときがありました。それでは奈良さんの作品は悲しみから生れたと考えてもよろしいでしょうか?

悲しみから何かが生まれるとしたら、それはかなり皮肉的なことでもありますね・・・けれども、僕の作品、というか制作における衝動は、悲しみだけからは生まれません。喜怒哀楽という人の感情を表す漢字熟語がありますが、そのような感情が複雑に絡まり合って制作が始まるようです。先にも述べましたが、僕の場合「感じる」ことで作品が生まれます。それでオーディエンスも「感じる」のだと思います。言いかえれば、僕の作品は、ほとんどの場合「勉強」「理屈」「言語化」からは生まれません。「理論」を学ぶには書物を読んだり、学校に行ったりと時間がかかりますが、「感じること」は、学んできた人よりも、学校に行く前の子どもたちの方が優れているのは誰もが認めることでしょう。僕は学んできた人間ですが、できるだけ過去の自分の感性を失わないように物を見て、経験を通じて得た実感に伴う言葉に出来ない理屈でもって、作品を生み出していきたいと思っています。

質問5.日本の福島地震の被害に関して心よりお祈り申し上げます。
大地震の当時奈良さんはどこだったのでしょうか?今回の被害で日本社会は大混乱な時期を過ごしていますが奈良さんの作品にも影響による変化はあるのでしょうか?もしかして関係がある作品制作中であれば教えてください。

今回の大震災は現在僕が住んでいるところと生まれて育ったところを繋ぐ地域で起こりました。自分の住む地域も被害があり、停電してロウソクで夜を過ごしました。電気が復旧してからは、いつものように絵を描き始めましたが、心が過敏になっているために、いつもより感情的な絵が多かったと思います。ただ、直接的に震災と関わっている作品かと言えば、日頃より描いているものとさほど変わりはないと思います。この震災後もすぐに制作が始められたということは、やはり「理屈」で描いているのではなく、「感じて」描いているのだという自分自身への認識にもなりました。しかし、震災後にただ絵を描いているだけでいいのか?人として何かすることがないのだろうか?という疑問が浮かび、被災地を訪れ人として出来ることをしています。赴いた大きな被災地は岩手、宮城、福島で、美術が好きな人、美術を学ぶ学生などを前にスライドショウをしたり、小さな村に自家用車で物資を運んだりしました。これからも、避難所での子ども対象のワークショップを手伝ったり、高校を訪れたりする予定です。有志によるチャリティ展などにも出品しましたが、今は人として出来ることで手伝いながら、復興後に必要とされるであろうという使命を持って(以前は、そんな使命感は微塵も感じたことは無かった)制作しています。

質問6.あまりにも大衆文化に関心が多い作家であることに認識されています。日本で人気の高いK-popまたは韓国の映画やドラマを含めた大衆文化を接したことは
ありますでしょうか?
'少女時代'のようなグループはご存じでしょうか?
好きな韓国のスター大衆文化がありましたらのべて頂けますでしょうか?

Gumxというフジ・ロック・フェスティバルにも来たことのあるパンクバンドが好きでしたが、まだ活動しているのでしょうか?K-Popというよりは、インディーズのバンドはよく聴きます。そして、ワンガはもちろん少時やKARAは聴いたことはありますが、その手ではf(x)がいいと思っています。

質問7.海外のアートフェアーで作品が良くみられますが今回の'GALLERY SEOUL11'に出品されたきっかけと作家として韓国で新しく開催されるアートフェアーに期待されることがありましたら何でしょうか?
また韓国のアートマーケットに関しての関心とご意見は?

質問8.今回'GALLERY SEOUL11'にはどのような作品を見せるのでしょうか?
新しく見せる作品とその特徴に関して説明をお願い致します。

質問9.世界の舞台に大活躍をされていますが近いうち計画されている展覧会や活動予定がありましたらお願いします。
また韓国でもいつか展覧会の予定はありますでしょうか?

僕はアートフェアという催し物自体は実際好きではありません。そこは作品と静かに対話できる環境ではなく、売り買いの場です。いかなるところのアートマーケットにも関心ありません。自分がまだ無名で、マーケットにも流通していなかった頃の制作はもっと自由で、しかも本当のオーディエンスと出会うことが容易でした。しかし、韓国に限らずアートフェアやアートマーケットには興味はありませんが、アートシーンには興味深々です。今回のアートフェアに出品するのは、このために特別に作ったものではなく、ギャラリーの倉庫にあったようなものです。セラミック作品の試作段階で作った頭部と、その合間に遊びで作った小品、そして去年ニューヨークで作った木版画です。

来年の夏に横浜美術館で、すべて新作による大きな個展を予定していて、日本だけではなくアジア、オセアニアを巡回する予定で、韓国でも開催できればと思っています。
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by ynfoil | 2011-05-13 04:11 | 日記 | Comments(0)